高橋
彼らはどうしても完成形だけを求めてしまうのですね。しかし、絵画を観ていると、いつも未完だと思うのです。今、私は油絵を習っているのですが、先生は私に細かい指示をしません。例えば、土のドライな感じを出したいと言うと、だったら、その場所の土を持ってきて、それを絵具にすればいい。うまくいかないと思ったら、はがせばいい。もし失敗して重ね塗りしても問題ないですかと聞くと、それで風合いができるからいいと言う。つまり、完成させないようにずっと指導するのです。そうやって常に満足させないような指導をされて、私には非常に得るものがありました。
峯本
なるほど。経営幹部にも同じようなことをやらせればいい。
高橋
でも、すぐに満足したい人が多いのです。感情的に喜びたいというか、ぬか喜びというべきか。そもそも経営者は満足していてはいけない。常に冷静に考え続けることが求められる仕事です。
峯本
それができないのは、若い人が「孤独」を知らないからです。孤独を知らないから安直に感情に流れてしまう。経営者は常に孤独です。経営幹部も孤独を知らなければ務まらない。私は高橋さんに強烈な孤独を感じました(笑)。
高橋
他人からは私は孤独というより、孤高と言われる(笑)。自分の世界観のようなものがあり過ぎて困ってしまうのですが、そんな経営幹部を増やしていきたいですね。
自分の価値基準を身に付ける教育とは
峯本
それには自分の哲学を磨く環境を用意しないといけないですね。今はコラボレーションとか、協業や共創といったことがもてはやされていますが、それはチームとして有効なのであって、一人ひとりの経営幹部に関していえば、「孤独」の環境をつくることが大切だと思います。
高橋
自分の基軸、または価値基準を身に付けるような教育ですね。やはり油絵を描かせるのもいいかもしれません。
峯本
同感です。自分自身を見つめ直して、何を描きたいのか。もし実際に「油絵を描け」と言われても、大半の人は何も描けないと思います。技術的な話ではなく、テーマを含めて何も描けないと思う。しかし、自分の世界観なり、何かを持っている人は、機会を与えられたら、これを描いてみようとなる。高橋さんがまさにそうでしょう。私の好きな画家の1人である龍村明の話で言えば、彼は弟子をとったとき「あれを見てこい、これを見てこい」というばかりですぐに描かせようとしない。「まだ描くな」と言う。つまり、まず「描かない」ということを教えるのです。すると、弟子は次第に描きたいものが溜まってきて、そろそろ描けと言われたときに一気にその思いの丈を描き始める。なるほど、そんな教育があるのかと思いました。
高橋
天才打者と言われた落合博満さんはバッティング指導の際、素振りばかりで何も教えてくれないそうです。そこで、ある選手が2時間くらい必死に素振りをしていると、こう言われたそうです。「だんだん力が抜けてきて、いいスイングになった。以上」と。教え方もたくさんあるものだと(笑)。
峯本
そうですね。経営を教えるときも、経営戦略から教えたら駄目なのです。
高橋
やはり感性を磨かないといけませんね。それをどう教育していくのか。そうしたプログラムをこれからつくっていきたいと思っています。
MSOL本社に展示している峯本氏所蔵の絵画
櫻井陽司(ようし)「海」
空と海が見せる一瞬の表情を、ありのままに感性を研ぎ澄ましてとらえている。その瞬間に込められた画家の真摯さを感じる作品。
光が差し込み輝くような色彩と、煌めく水面。その間(はざま)に織りなす陰。風、ヨットが波を切る音、潮の香りを感じ、時空を超えて、あたかもそこに居るかのような感覚にとらわれる作品。